「さくらの日」と「日本さくらの会」
桜の開花日は年によって、地域によって様々なので、何をもって「さくらの日」にするかは難しいところですが・・・。
3月下旬は、例年では桜の開花時期が近いことと、「さ(3)く(9)ら」の語呂合わせから、
(「ら」が見当たらないのが、ちょっと苦しいけど・・・)
3 × 9 = 27
として、日本さくらの会が3月27日を「さくらの日」としました。
この「さくらの日」は日本の歴史や文化、風土と深く関わってきた桜を通して、日本の自然や文化について関心を深めてもらう事を目的にしているそうです。
七十二候の桜始開
春分や秋分など二十四節気は有名ですが、その二十四節気をもっと細かく分けたものに「七十二候」というのがあります。年間72回の歳時記ですね。
この「さくらの日」。もうひとつの由来は、七十二候の桜始開(さくらはじめてひらく)からきているそうです。
春分を3つに分けたうちのひとつが桜始開。文字どおり桜が咲き始めることを指す言葉で、これを暦にすると3月27日頃であったことから、この日を桜の日としたそうです。
語呂合わせよりも、こちらの方が風情があって、良いのでは・・?
「さくらの日」に新「さくらの女王」が誕生?
この、さくらの会では、2年に1度、偶数年に「さくらの女王」を選出しています。
「サクラの女王」は桜の愛護や育成などの象徴としてボランティア活動していて、全国で開催されているさくら祭りや桜の樹の植樹イベントなどに出席しているようです。
桜の原産地、ネパールの桜は秋に咲く?
日本をはじめ、世界の温帯地域に自生する桜には数多くの種類があります。
東アジアはもちろん、ヨーロッパでも北米大陸でも桜の原種があります。
総じて東アジアの桜は華やかに花をつけて実がショボく、ヨーロッパや北米の桜は花はあまり華やかではありませんが、実が立派。だから桜の実である、サクランボ(チェリー)が果物として昔から親しまれてきました。
米国初代大統領ジョージ・ワシントンの「桜の木のを切ったのを正直に話して褒められた話」っていうのもありますからね。
どうやら、あの逸話自体はフィクションらしいのですが、北米大陸にも桜の原種があったらこそこういう話が生まれたわけです。

さて、近年、日本や韓国、中国など、各地に自生する桜のDNAの解析が進み、桜の原産地が明らかになりました。桜の原産地はなんとネパールのヒマラヤの山々の山中でした。
ネパールと聞くと氷河をいだくヒマラヤのイメージや、お釈迦さまが悟りを開いたとされるブッダガヤの史跡を思い浮かべる人が多いと思います。
このため、寒いか暑いの両極端な気候のイメージを持たれがちですが、国土の大部分は高地でも低地でもなく、標高500m〜2000mの丘陵地帯が広がっています。
気候は主に温帯から亜熱帯という感じで、日本の太平洋ベルト地帯よりもやや暖かいぐらいです。
桜の起源は、数千万年前にここネパールの丘陵地帯で自生していた山桜でした。
この種が数千万年かけて、鳥に運ばれビルマの山岳地帯から、中国雲南省、福建省、台湾、日本へと続く温帯ベルトを渡ってきたのでしょう。
桜にとって最果ての地である日本には、後に桜をやたらと愛でる日本人が住み着きました。
さて、ほとんどの日本の桜は春に咲きます。中国でもそう。もともとは秋の花だった桜が、なぜ中国や日本では春の咲くようになったのでしょう。
これも科学的に解明されています。1年を通して温度差が少ないネパールから、夏冬の寒暖の差が激しい中国や日本の厳しい環境へと移動していくなかで生き残るために眠ることを覚え、春に咲くようになったという説が有力になっています。
ということは、秋に桜が咲くのは先祖返りですかね?
桜の代表品種「ソメイヨシノ」
最近は河津桜とか寒緋桜など様々な品種の桜が注目されるようになり、公園や広場に植えられる桜もバラエティに富んできました。
それでも桜といえばソメイヨシノのイメージがつよいですね。一番ポピュラーながら個性的な面を持った桜です。
ソメイヨシノの原産地は吉野ではなくて東京
ソメイヨシノは、江戸時代のたった1本の原木から接ぎ木をによって、日本中どころか世界各地に広まった園芸種です。
接ぎ木なので、全ての木は遺伝子が完全に同じ。それゆえに一斉に咲き、一斉に散っていきます。
そんなソメイヨシノの原木は、上駒込村染井(現在の東京都豊島区駒込)の植木職人が交配して作ったものと推定されています。
江戸時代の駒込染井は植木の産地で、植木屋が多数集まっていました。この染井の地で誕生した新種の桜は、千本桜で有名な奈良の吉野にあやかって「吉野桜」と名付けられました。
このため、江戸の人はこれを本当に吉野の桜だと思っていたようです。
その後、明治になって交通が発達して吉野へ訪れる人が増えると「吉野桜」と、実際に吉野で咲いている桜「ヤマザクラ」が別種であることが分かりました。
これでは混同しやすいということで、1958年に「染井吉野(ソメイヨシノ)」と改名されています。
全国各地で寿命を迎えつつあるソメイヨシノ
先にも触れたとおり、ソメイヨシノは接ぎ木で増えるので、成長スピードも速く様々な場所に植樹され、あっという間に全国各地に広がっていきました。
ただし、ただしソメイヨシノは寿命が短く、およそ60年といわれています。老木になると病気にかかりやすくなったり、幹が朽ちて倒れやすくなります。
全国のソメイヨシノは終戦直後に植えられたものが多く、現在多くのソメイヨシノが寿命を迎えています。このため、ソメイヨシノの植え替えが課題となっています。
私の自宅の近所にも全国桜百選に選ばれている有名な桜の名所があるのですが、そこも終戦後すぐに植えられたとのことです。樹齢70年ぐらいでしょうか。
確かに近年、弱っている木が増えてきて、地元の保存会が樹木医の指導を受けながら、悪い枝を切り落としたり、肥料をやるなど色々と手を施しています。
弘前公園の桜、ソメイヨシノは樹齢100年を超えている
このソメイヨシノの寿命が60年というのは一般論で、長寿の木もあります。これは例外なのでしょうか。それとも、良く管理されているからなのでしょうか。
青森県の弘前公園は、日本最古のソメイヨシノが見事な花を咲かせていることで有名です。植えられたのは1882(明治15)年とのことですから、樹齢140年!近くに達しました。
1950年代に一度枯れそうになりましたが、関係者の懸命の手当てのかいもあって蘇ったそうです。
当時は桜の枝は剪定しないことが常識だったところを、りんごの剪定技術を取り入れてみたことが功を奏したようです。
このソメイヨシノのほかにも弘前公園内には、樹齢100年を超えるソメイヨシノが300本以上も残っています。
米国ワシントンDCのポトマック公園の桜(ソメイヨシノ)も長生き

米国の首都ワシントンDCの中心部を流れるポトマック川岸の桜も有名ですね。春になると2000本もの桜が一斉に開花し、日米友好の証である桜のトンネルが出来上がります。
日米友好の話題で取り上げらえることが多いこの桜ですが、、長寿という点でも特筆するレベルになっています。もちろん品種はソメイヨシノ。
この時送られた苗木3020本は、1912年2月に横浜港を発ち、検疫も無事通過してワシントンに到着。
同年3月27日に記念植樹が行われました。このうち2000本が今も枯れることなく立派に花を咲かせていることになります。すると、今年2021年で樹齢は109年!長寿です。
気候がワシントンDCとマッチしたのか、よく手入れしてくれているのか、いずれにせよ日本人として嬉しい限りです。
「ソメイヨシノ」に取って代わるか?新しい桜「ジンダイアケボノ」(神代曙)
枯れたり、老木となって弱った「ソメイヨシノ」の代わりとして、近年よく植えられているのが、新品種「ジンダアケボノ」です。
上の章で触れたワシントンDCに寄贈された「ソメイヨシノ」と、別種の桜がアメリカで交雑してできた桜にアメリカ名「akebono」、日本名「アメリカ」という品種があります。
これを逆輸入して調布市の神代植物園で接ぎ木して育てたうちのひとつが、「アメリカ」と異なった特徴をもっていました。
これが「ジンダイアケボノ」(神代曙)です。

「ジンダイアケボノ」の特徴として、
・「ソメイヨシノ」より木が少し小さく、開花が1~2日早く、花の色は少し濃いピンク色をしている
・葉が出るより前に花が咲く点は「ソメイヨシノ」と同じ
といった点があげられます。
また、病気にも強く、特に「ソメイヨシノ」がかかりやすいテング巣病にかかりにくい点も長所です。
「ソメイヨシノ」の代わりに成り得ると言えば確かにその通りですが、すこしピンクがキツイ気がします。
個人的には環境に応じて植え分けてほしいのですが、贅沢なリクエストでしょうか。