「聞き流すだけで英語をペラペラ話せるようになるのか否か」というのは、日本で昔からある英語学習に関する議論のテーマのひとつです。実際、私にも「聞き流しをしていれば、少しは英語が話せるようになりますかね?」とたずねる人もいました。私がたまに車の中で英語のリスニング教材や英語ニュースを流しっぱなしにしているからかもしれません。
この質問には「できればあまり努力することなく英語を習得したい」「聞き流しで英語の学習が出来るのであれば時間を有効に使えて効率的」というような淡い思いや期待が見え隠れします。
結論から言いますと、聞き流しで英語が話せるようになることはありません。聞き流しでは聴く力であるリスニング力の向上もあまり期待できません。
聞き流しでは英語が話せるようにならない理由、次の3つの理由にまとめられます。特に初心者に当てはまりますので、ムダな時間を浪費しないためにもこれを読んでほしいと思います。
意識していない情報を脳は処理してくれない
脳に情報を定着させるためには、その情報を意識することが必要です。例えば普段歩いている街中で道路標識を探そうと意識すると、今まで見えていなかった(気にもしていなかった)道路標識が目に飛び込んできます。それらはこれまでも目にしていたはずのモノです。
逆に言えば、意識していない情報はほとんど脳に入りません。脳はエネルギーを大量に消費する器官です。常に機能をオンにしていると負担がかかります。そのため、意識をしていない情報は脳は処理をしてくれません。スルー状態ですね。脳が処理していない情報はその人にとって存在していないも同然の状況となってしまいます。
これは英語学習についても同じことです。意識しないで聞き流しただけの英語は存在していないのと同じです。脳が情報として処理していない状態で何度繰り返して聞いても、脳に定着することはありません。
日本語でも同じですよね。他事を考えながら読んだブログの記事(このブログか!?)とか、料理をしながらドラマを見ようと思っても、料理に集中してくるとドラマの内容は入ってきません。ほとんど記憶にも残っていません。
ましてや英語は私たちにとって外国語。私たちの脳に意識をさせないままでいると、脳は英語を日本語以上にスルーします。
意識して聞かないと、最悪の場合脳は勝手に音を雑音に変換してしまう
日本語にない音は聞き取れない・・・脳はカタカナ音で変換してしまう
英語特有の音、つまり英語にあって日本語にはない音は、それを意識しないと聞き取れるようにはなりません。
例えば”right”と”light” の音の違いは日本語にはないものです。そのため、英語学習の経験がない人・まだ英語学習の初期段階の人は、脳が知っている日本語の音に変換し、両方とも「ライト」と聞き取ってしまいます。
この音の違いを脳に定着させる前の段階で聞き流しをどれだけ繰り返しても、”right”と”light”を聞き分けられるようにはなりません。
”right”と”light”は発音が異なることを意識して繰り返し聞けば、この新しい音という情報が脳に定着し、認識が出来るようになります。
知らない単語は聞き取れない・・・脳は雑音として処理してしまう
例えば、天気予報の「予報」“forecast”。高校で習うレベル、TOEICで470点、英検2級レベルの単語ですが、生活に身近な単語でもあります。決して難解な単語ではありません。
とはいえ、この単語の意味と発音が脳に入っていなければ、脳はなにも処理をしてくれません。つまり雑音として処理してしまうのです。
識して聞いていれば知らない単語だと認識します。音についてもある程度記憶します。そしてもし文脈から類推できれそうであれば、頭はそのように思考を働かせます。後でテキストを見て意味を確認すれば完全に記憶として定着します。
残念ながら聞き流しではこのプロセスが一切行われないまま時間が過ぎて行ってしまうのです。
知っている言葉と、話せる言葉は違う 「認識語彙」と「運用語彙」
このテーマだけでいくつかの記事が出来てしまいそうですが、知っている言葉と話せる言葉は同じではありません。前者が多く後者が少なくなります。
私たちの母国語、日本語で例えましょう。ある経済ニュースを聞いて、全て理解できたとしましょう。それをあなた自身が、説明できるかということです。あなたがその分野に通じた人でないと、専門的な言葉は易しい言葉、普段私たちが生活で使っている言葉で置き換えていることでしょう。これは極めて自然なことです。つまり、認識(浅い理解)はしているが、深い理解がないことから使いこなせない単語ということになります。
英語は外国語です。今の例は日本語でも専門用語などは自分のモノになっていない単語が山ほどあるということですが、英語は基本的な単語でもモノになっていない単語は山ほどあります。というよりそれをモノにするために、わざわざ学習しているのです。
すると聞き流しでは深い理解をすることはありません。したがって、聞き流しで聞き馴染みのある単語が増えたとしても、それがモノになっていることはまずないでしょう。
繰り返し聞き流しをし続けていたら、いつの間にか自然と英語のフレーズが口からスラスラと出てくると考えるのは幻想です。
急がば回れ!意識して学習を積み重ねていくことが、英語を身に着ける一番の近道
散々聞き流しについてネガティブな事を述べてきましたが、それだけ「聞き流し」で英語が身に着くことへの誘惑が強いことの裏返しです。実際に私も以前は、その時学習していた教材のCD程度なら車で流しておけばOK!いつの間にか定着するさ、へへっ!などと甘く考えていた時期もありました。幸いにして意味のない学習法だとすぐに気が付いて良かったのですが、どうもこの誘惑は日本中に蔓延しているようで・・・。
ということで、聞き流しで英語が身に着けられれば効率的だ、という期待があるかもしれませんが、これはかえって遠回りの勉強法です。意識して学習することを心がけましょう。
中級者以上でしたら、実践する意義のある「聞き流し」というのもあります。それはまた別の機会にお伝えします。